大事な局面で意思決定を激しく狂わす魔物「間違ったトレードオフ」。この魔物を退治するにはどうしたらよいのでしょうか。

経営上の、現場行動上の意思決定の場面では「何に答えを出すべきか」という議題の設定が重要です。しかし、この議題の設定ミスが意思決定のミスの原因になることはよくあります。その原因の一つに「間違ったトレードオフ」による議題設定のミスがあります。意思決定の入口で既に誤っているケースです。

今回は「間違ったトレードオフ」について記載します。

トレードオフとは

誰が編集したか分かりませんが、Wikipedia、素晴らしく簡潔・的確な記述で関心します。

トレードオフ(英: Trade-off)とは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態・関係のことである。 トレードオフのある状況では具体的な選択肢の長所と短所をすべて考慮したうえで決定を行うことが求められる。 ~Wikipediaより転載

日本語では二項対立ともいわれます。あちらを立てればこちらが立たずという状況です。
このトレードオフの状況はビジネス界のいたるところに見られますが、誤った認識によって意思決定に失敗をもたらすことが多いです。

間違ったトレードオフを見抜くためのイメージ図

いきなりで申し訳ありませんが、まず一つの図を説明させてください。
オーディオ機器のスイッチ類を用いた例え話になります。

対立する?と思われる二つの事象の関係は以下の3つに整理できます。②③のように、どちらか一方という関係でない2者が①のように比較されるケースは多くみられます。

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この図をイメージしながら、よくある例をご説明します。

よくある例

売上拡大vsコスト削減

「売上とコストのどちらを改善すべきか」というような議題設定のケースです。

売上がポジティブ、コストがネガティブなイメージがあります。そのためか、売上を上げればコストの悩みは消えるという論理で「コストダウンなんて根暗がやること。売上アップ!」と所構わず主張するコンサルタントが残念ながらいます。わざわざSNS上でコスト削減支援を生業にする方を中傷するからタチが悪い。「売上を上げたいなら、コストは諦めなさい」なんて話になるはずがありません。
このようなケースは、今ある人材や時間をどのように配分して対処するか②のバランス選定であるべきです。営業部と生産管理部の分業など経営資源を取り合うことがなければ③と捉えることができます。いずれにしても一方を肯定、もう一方を否定する必要はありません。
医学で例えるなら、予防医学と治療医学のどちらを取るべきかという話が変であるのと同じです。「薬なんて飲むな。医者なんて頼るな。運動と栄養だ」というレベルの話がビジネスの中に時折出現します。

トップダウンvsボトムアップ

情報をやりとりする際、上から下、下から上のどちらであるべきかの議論を見かけます。これもどちらか選ばないといけない①スイッチの話ではありません。②スライダーの関係でしょう。組織の状況、通達すべき情報、求められるスピードを考慮しながらバランスを検討していく内容です。双方から歩みよるコミュニケーション方法だってあり得ます。従業員側を味方する意味でボトムアップを安易に支持して業務設計を行うとかえって非効率になるケースもあるはずです。

コストvs品質

製造業でも飲食業でもかける素材、手間暇で品質が変わることは当然あります。ただ、これもバランスの話(②スライダーの関係)として捉えることで得られるアイディアはあるはずです。名著ビジョナリーカンパニーでは「ORの抑圧」「ANDの才能」という言葉で語られています。

応用 極論をもって一方を否定するロジック

例えば、業務改善の中でルール作りやマニュアル化を検討する。その反対意見として「ガチガチに縛るのはどうか」「形式的で冷たい」「柔軟性がなくなりサービス悪化に繋がる」というのはよく聞くと思います。縛るのも冷たいのも行き過ぎた極論です。「(ガチガチの)マニュアルを作るべきかどうか」という議題ではなく「ルールをどこまで細かくすべきか(②スライダーの関係)」という議題を設定すべきであり、無数の選択肢が存在することを忘れています。

応用 怒り出す人

対立すると思われる一方を支持すると、もう一方を支持する人が怒り出すことがあります。否定されたと勘違いするからです。例えば、コストダウンの話をすると、営業一筋の営業マンが売上アップ策を否定されたと誤解して怒る等。「売上増やしてナンボだろーが。お前らは涼しい部屋で…。」どちらの話ではないのですが誤解を解くことに時間がかかります(話の持っていき方にもよりますが)。

いかがでしょうか。他にも直感と計画、リスクとリターン、システムと人、資料の見た目と中身など、色々出てきます。「Aは違う。だからB」という主張のABに関連性が低ければ論理的に破綻しています。
取りうる選択肢が何なのかよく吟味してバランスを考えましょうということです。Wikipediaではすべて具体的に考慮しろとまで仰っています。大事な意思決定の場面で分かれ道がいくつ存在するか気付かないようではいけません。売上とコストの関係を正しく捉え、悩んだ末に今年は売上アップに専念する、品質優先だがコストにも1割のマンパワーをかけるというような意思決定であるべきです。

ご注意いただきたいのは、ある時は②スライダーの関係であっても、状況によっては①スイッチである場合もあることです。売上拡大vsコスト削減の話でも、どちらか一方を取らないといけない場合はありうる。状況をしっかり把握して取りうる選択肢をあぶり出しましょう。

明日を良くする魔法

何かを肯定しつつ同時に何かを否定するシーンに遭遇した時、上のイメージ図を思い出してください。そして、魔物を退治する魔法「本当にどちらかを選ばないといけない話なのか。バランスではないのか。」を唱えてください。その時、安易に進みかけた空気を切り裂き、光が新しい道を照らし出すでしょう。

このイメージ図を意識し出すと大小様々な魔物が多く潜んでいることに気づくと思います。
何でもかんでも魔法を使いまくると煙たがられます。ここぞという時に効果がなくなるので使いすぎにご注意ください。