企業の大小に関わらず、勇気と覚悟と夢と不安が交錯する投資案件「業務システム導入」。夢を抱いて導入したにも関わらず、悲しみの声が後を絶たない。
システム導入した後によく聞く悲しみの声
システムを導入してから、以下のような場面が増えていませんか
・印刷すると帳票が大量に出てきて見きれない
・見てもどこに問題があるか分からない
・難しい数値が並び、理解に時間がかかる。なぜが電卓がいる
・用途不明の入力項目が多くて作業がしんどい
・使いこなせず、段々使わなくなった
・この管理表発行ボタン押したことない
・在庫削減を目的に導入したが、今となっては受注・伝票発行システムなった
・帳票が使えない。結局データをEXCELで手間かけて編集して活用している
・「業務がシステムに合わせるんだ」というフレーズが頭にくる
・自分たちの問題点はシステムそのものでなかった
・これだ!と思ったが、それではなかった
システム導入から時間が立つにつれ、このような様々な問題を生み出す黒服サングラスのエージェントが現場にたくさん現れます。
預言者が「彼こそが予言した救世主よ」とか言うから導入してみたものの、簡易的なパッケージシステムで良かったんじゃないか。EXCELで良かったんじゃないか。そうこうするうちに「サーバー更新」「ライセンス更新」など多額の追加費用が請求され大騒ぎになる。よその話では「月1000円ポッキリのクラウドサービスで同じことできるよ」と聞いたりすると居ても立っても居られない。
現場のみんなもシステム会社の担当者も一生懸命に頑張ってきたはずなのに、このような後悔をよく聞きます。なぜでしょうか。
まずはシステムを分類する
原因を特定するため、システムを用途で大きく2つ、手続き機能と判断機能に分けます。
①手続き機能
一つ目が手続き機能。業務そのものを行うためのシステムで、商習慣や会計基準、法律等による定型的な機能が多い。
- 受注や発注、入金などの取引登録機能
- 金額を管理する会計機能や給与計算機能
- 見積書・注文書、納品書、請求書などの取引書類発行機能
- 倉庫の荷物の管理を行う倉庫管理機能
- 荷物やトラック、ドライバーの管理を行う物流管理機能
- 顧客や商品の情報を入力するマスタ機能
など。定型的であるため、たいていのケースでトラブル無く導入が完了する。必要な機能なので使われないということもほぼない。
②判断機能
二つ目が判断機能。業務をより良くするための判断基準を提供する。手続き機能で蓄積した情報を活用して新たな情報を得る。
- 労務費や原材料費の上昇を防ぐための管理会計機能
- 工程を管理する生産管理機能
- 過剰発注、過剰生産を防ぐ在庫管理機能
- 効率的な物流を提案する配送ルート生成機能
- お客様の意見、要望を分析してサービス改善に生かすCRM機能
など。システムの標準の型はあるものの、答えの無い業務改善を取り扱ううえでは、システムと現場が適合しにくいことが多々ある。
上述した悲しみ声は、判断機能に多く発生します。
悲しみの原因は何か
道具か魔法の杖か。認識を誤っていた
「このシステムによって○○ができるようになります。」コストダウン、生産性向上、キャッシュフロー増加、月次早期化など麗しい言葉が並ぶ。
売り手は決して嘘をついていません。どちらかというと買い手側に解釈の飛躍が起きています。野球に例えるなら、「ヒットを打つための道具を揃えましょう」が、いつの間にか「バットを買えばヒットが打てる」に認識が変わる。手段の目的化というヤツです。
「原価率を下げるために原価システム導入」
「詳細なコスト管理をするために管理会計システム導入」
「顧客満足度を上げるためにCRM導入」
「時代はビッグデータ。だからBI導入」
という話は
「チームを勝利に導きたい。だからイチローモデルのバットを買う」という位飛躍した話です。間違っていないけどプロセス「練習」がすっぽり抜けています。
書けば単純なことです。「そんなこと分かってるよ」とお怒りになるかもしれませんが、言動を観察すると抜けていることが多いです。トラブル発生時「そこをなんとかするのがシステムのプロの仕事だろ」と叫んだところで手遅れになる。
そうして、「練習(=業務改善)」というプロセスは放置され、いつまでもシステムと業務のギャップが埋まりません。このギャップは自然に埋まるものでは決してありません。
熱が冷める。関心が無くなる
複数の部門、業務に影響するシステム導入のセオリーとして、全機能を一時に導入するリスクを避けるため、業務運営に直接関わる手続き機能を先に、判断機能を後に導入する2段階導入がよく採用されます。
その時、トラブルだらけだった手続き機能の導入が一段落すると、安心感もあって次のステップに進む熱が冷めてしまうことが多いです。「落ち着いたらやります」
現場としては自分に直接影響がある手続き機能に比べ、直接影響がない判断機能は関心がもともと薄い。段々面倒になってくる。今まで無くてもなんとかなっていたこともあり、忙しい日常に流されていつの間にか忘れ去られてしまいます。
そうして、判断業務を浸透・定着化させるという業務改善は放置されます。
何をすべきか
システムは道具という認識を持つこと
バットはイチロー変身グッズではありません。ボールを打ち返すだけの道具です。
道具という認識を持つことで、バットを買った後何をすべきかはっきりします。
実際に使う従業員の顔を思い浮かべながら「自分達に使いこなせるだろうか」「どんな練習をすればいいのだろうか」「使えるまでどれくらい時間がかかるだろうか」という疑問を持てるようになります。
道具の使い方を知る人に聞くこと
道具という認識を持ったうえで、その使い方をシステム会社としっかり相談してください。導入の注意点・コツを自分が理解できるまで聞くこと。導入企業の苦労話など事例をしっかり聞くこと。どこまで面倒みてくれるのか、予算と支援範囲のバランスを見ながら話し合うこと。
担当者がとんちんかんな回答しかできないなら取引は見送った方がよい。最前線がそれなら開発部隊へのフィードバックも大したことはなく、ソフトウェアも導入ノウハウも育っていない可能性があります。一方、お話を聞く姿勢ができている担当者、専門語でなく相手の言葉で話せる担当者は信頼してよいと思います。じっくり悩みを打ち明けてください。その他にITコーディネーターや中小企業診断士のような方々に相談するのも良いかもしれません。
システムと業務改善をセットで検討すること
「うちは予算管理に弱いから予算管理システムを入れる」
システムが行ってくれるのは、予算情報と実績情報の登録、そして予算と実績を並べて表示・印刷する所までです。
適正な予算は何を拠り所に決定すればよいか。日々の会議体でどのようなことを話し合えばよいか。問題点を的確に表す必要最低限の情報はなにか。それら情報はどのような順番で見ればよいのか。それら情報を得るために今の業務で変えるべき点は何か。システムという道具を使う自分達を想像して業務上何がが足りないか、時間を惜しまず検討すること。
そして現場担当者に「なぜこのシステムが必要なのか」しっかり説明し、理解を得ること。可能なら計画段階からキーマンを巻き込むこと。スケジュールを共有し長い道のりであることを理解してもらうこと。
時期をみること
システム投資=即問題解決とならない限り、急ぐことは最善ではなく、投資時期の見極めは重要です。予算消化や補助金が絡む場合であってもです。
鎡基ありといえども時を待つに如かず(孟子)
「立派な農具があっても時期を待たなければよい収穫は得られない(鎡基:じき)」の意味
弊社のご支援においては、企業様とシステム会社様の橋渡し役を担い、認識のギャップを埋めることに努めます。システム導入前にすべきこと、導入中に並行で進めればいいこと、導入後でもいいこと。業務課題を見極めて、最適なシステム投資時期と規模を検討。タスクを見極めて、スケジュールと体制を検討。ご負担を最小限に抑え、効果創出を早めるお手伝いを行います。