製造業の生産業務における情報流通機能の改善事例と、プロジェクトを通した従業員の行動改革の事例をご紹介します。
事例企業の概要
関東郊外にある30名規模の中小製造メーカーA社。
大型機械設備の個別受注生産を行なっており、工期が数日から数年まで幅広く、大小様々な案件が同時並行で進行している。それら案件は公共施設向けが多く年度末に納期が集中する。
数年前の同業者のM&Aをきっかけとして事業拡大が進み、比例して従業員数も3年で倍増しました。
問題点と目標設定
会社の規模が急拡大していくなかで、それを支える組織基盤が未熟であると社長は悩んでおられました。
トライスターズとはそのようなタイミングでお会いすることになります。
会社をさらに成長させていくために、一旦立ち止まって経営基盤を整えることが最優先課題と話し合いました。
さらなる事業拡大路線は工場新設によるライン拡大が必要となる点、大手企業との接点が増えており社長ご自身が現場業務から本来の社長業へ早急にシフトする必要がある点、営業を担える人材の成長にもう少し時間をかけたい点、一気に増えた従業員の育成や生産効率化の余地が多い点などを考慮し、当事業年度は社内の基盤強化に注力することに。
M&A実施後、必死に蓄積してきた技術力が顧客の評価を獲得、業績アップにうまく繋がっているので、しばらくは攻めでなはく守りに時間をかけてもバチは当たらないでしょう。
目標は”事業拡大に向けた経営基盤強化”と設定しました。今は力をしっかり蓄積して、バネの力で一気に飛躍する。
改善方針
まず、生産現場の業務改善から着手。
A社は大小様々な案件が同時並行で進む特徴がある。案件それぞれのスピード感が異なり生産管理を誤りやすい。生産ピークが重なる時期は納期遅延、品質悪化、残業による疲弊が起きやすい。生産工程のダブつきに気付くタイミングが遅れ、社長も結局鎮火に張り付くことになっていました。
ここを改善させます。
生産工程がダブつくポイントを早めに察知し、従業員が自分達で考えて手を打てるような仕組み。情報流通機能と軌道修正機能の大工事が始まります。
以下は情報流通機能の改善事例です。
情報流通機能の改善策
今の段階では生産管理システム導入はいたずらに現場を乱すと考え見送りました。
もっとシンプルに、みんなが馴染みやすい施策として、ホワイトボードによる工程管理を選択しました。IT業界などプロジェクト管理でよく使われる「かんばん方式によるタスク管理」を採用しました。
ホワイトボード上でかんばんの量、動き、偏りを見える化させることで、パッと見で工場全体の流れを把握させる。さらに補足システムとして、EXCELによる案件管理表を作成。日付や伝票No.、図面番号など細かな情報を管理する。
流れるかんばんに載せる情報の単位は部品表。見積もりから設計、製造、外注、組み立て、出荷、設置まで全て業務がこの単位で動く。
それらを会議室に広げ流れを表現させます。
この仕組みの企画からテスト運用まで2か月ほどかけて試行錯誤。
その間の投資は文房具など消耗品のみ。これまで、誰も見ない掲示板の役目しか与えられず寂しそうだったホワイトボードが、なんということでしょう。息を吹き返しました。
改善効果
製造業務全体の工程の見える化
「これを見れば一目瞭然。自分達でも簡単に理解できる」というものがあると非常に心強い。「今どうなってんだ?」「大丈夫なのか?」等心理的なストレスも軽減される。
従業員も他の部署が起きていること、これから起こることが分かり、自分たちの仕事の視野を広げる気付きになります。
進捗会議の活性化
全体を分かり易く俯瞰できるようになると会議の中身も変わっていきます。
記事:実りない会議の特徴でお伝えした空中戦を防止できる。従業員それぞれの認識が揃い、話題についていくことができる。結果、アイディアが出やすい場ができる。ホワイトボードなので良い意見は書き出すことで後に残る。
進捗会議において必要となる生産管理の仕組みはこれで十分でした。緻密な数値が並んだシステム帳票ではみんな下向きになり、会議が活性化しない。大局をわかりやすく共有できれば、会話が変わり、行動が変わります。副次的な効果として、若手メンバーが司会を務めることが可能になり、今後のリーダー育成にも繋がります。
先を見る習慣
生産管理の仕組みを構築するうえで重要なポイントは「先を予測して現場行動を引き出す仕掛け」です。
社内全体の製造工程を俯瞰できたことで、これから何が起こるのか予測することが容易になり、先手を打つことが容易になりました。人の手配、在庫補充、外注依頼、何を共有しておくべきか、依頼しておくべきか。
進捗報告に始終しがちな会議をやめる。そんなことは見ればわかる。前を向いてこれから先のことを話し合う場作りを行いました。
目標達成に向かうために組織全体の目線を変えることは非常に重要な改善です。
今後も自分たちで試行錯誤しながら改善を加えていってもらいます。今ではボードが手狭になってきたので壁一面ホワイトボード化を検討されているようです。
スター誕生
今回の改善プロジェクトの計画、推進に携わったMさん。
購買担当として中途採用された2年目の穏やかな女性。そんな彼女がプロジェクトを通して「今どのような状況なのか」答えられる立派なスターになっていただけました。ご自身の素質も相まって、タスクの流れや緊急度など、現場の意思決定に必要な情報を丁寧に作り出して流通させる要になり、工場の男性陣をリードしてしまう程に活躍されています。今では自分の代わりとなる次なるスター育成に向け業務改善を取り組んでおられます。
Mさんというスターの出現により、社長の「現状を誰もわかってない!」「なんでもっと早く言わないんだ!手を打たないんだ!」といった類のストレスがかなり軽減されたようです。
(走攻守揃った)ナンバー2がいないと悩まれておられましたが、守備のスターは身近にいたということで安心感を持たれたとのことです。
トラスタ考察
いかがでしたでしょうか。
これが掲げた目標に対する施策の全てではありませんが、組織を変えた事例としてご紹介しました。
トライスターズが考える情報流通機能とは「大局を掴むために必要な情報を必要な人に届ける仕組み」です。生産管理システムなど不要だと言うつもりはありませんが、ITシステム導入そのものが解決策の中心にならないケースは多いです。
目標達成させるための仕組み作りにおいて、何をいつ知ることができれば意思決定ができるのか。その情報をどう作ってどう流通させるのか。負担最小限の方法は何か。それをしっかり見極めることが重要です。
自立した現場の実現にはまだ時間が必要ですが、社長の負担は大きく減ったと思います。N社長、負担が減った分、攻めの準備を進めていきましょう!